運動能力の低下
年をとると、臓器も硬くなります。
例えば、大動脈や心臓の組織中のコラーゲンが増加すると、弾性度が減少し、硬さが増します。
その結果、血圧は、収縮期の血圧が上昇し、拡張期の血圧が低下します。
若いしなやかな大動脈は、心臓から拍出された血液を一旦そこにプールすることにより、
収縮期血圧の上昇を緩衝し、逆に拡張期には、弾性力でそれを末梢側に送り出すことにより、
拡張期の血圧低下を防ぐ働きがあるのです。
高齢者の大動脈は、しなやかさ、弾性度がなくなり、このような血圧の緩衝効果が消失するので、
収縮期血圧が上昇します。硬くなった心臓では収縮は問題ありませんが、拡張しづらくなります。
その結果、心房に負担がかかります。
心房は、全身から返ってきた血液を集め、拡張期に心室に送り込む役目をもっています。
これが高齢者に心房性期外収縮や心房細動などの不整脈が多い主要な一因になっています。
体が反応しなくなる
体の機能は、様々な神経やホルモンの働きで調節され続けています。
外界の刺激や体内の変化を察知して、それらに対し各臓器が適切に反応して、
はじめて満足いく生体としての機能が維持できるわけです。
老化した体の1つの特徴は、このような刺激に対する反応性が低下することです。
インスリンに対する感受性の低下もその1つです。交感神経の興奮に対する反応性の低下もその一例です。
そのため、高齢者は運動しても心拍数が十分に上がりません。
その原因は、交感神経やアドレナリンに対する心臓のベータ(β)受容体の反応が抑制されるためです。
β 受容体の反応性低下は、高齢者の本質にせまる症状ですが、そのメカニズムは解明されておりません。
体の恒常性が低下する
血圧、心拍数、体液量、血清電解質や体温などは、常に一定の範囲内に安定した値を保っています。
これらが変化したとき、体は、すみやかにそれを元の状態に戻そうとする復元力が働きます。
これをホメオスタシス(恒常性維持)機能と呼びます。
老化した体は、この機能が低下する結果、各臓器が正常に機能しないことがしばしば起こるようになります。
その一例が、急に立ち上がったときに、クラッとする症状の原因となる起立性低血圧です。
人は立ち上がったときに、血液が下半身に集まり、心臓から拍出される血液量が減少する結果、
血圧が低下して、一時的な脳貧血の状態となるのが原因です。
若い時には、血圧低下を頸動脈や大動脈壁内にある調圧反射受容体が感知して、交感神経が興奮し、
血圧低下を防ぎます。
その機能が低下すると、血圧の変動性が大きくなり、起立時に大きく血圧が低下するわけです。
ホメオスタシスの機能低下は、高齢者の病気や薬剤の反応が変化する原因となり、加齢の重要な側面です。
最大運動能力の低下
運動能力の低下も、正常な加齢現象です。
ここでいう運動能力の低下とは、最大酸素摂取能力の減少のことを意味します。
これは、最大限努力したとき、何分間運動を持続できるかによって測ることができます。
運動能力は、いかに多くの酸素を体内に取り込むことができるかで決まります。
これは、大きく2つの因子によって左右されます。1つは運動時の心肺能力です。
そして、もう1つは、末梢での筋肉における酸素の摂取能力です。
老年期においても、健康な日常生活を営む人は、最大運動時の心拍出量に低下は認められません。
すなわち、高齢者の運動能力の低下は、筋肉が酸素を摂取する能力が低下しているためです。
そして、その最大の原因は、筋肉量自体の加齢による減少です。
脂肪の量は、中年から老年初期にかけて増大します。さらに高齢になると、今度は脂肪も少なくなります。
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